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2005年10月26日 (水)

海底地震

今、日本人最大の関心事と言ったら…野球やサッカーではなく、いつか襲ってくると想われる「地震」ではないだろうか。新潟県中越地震から1年、つい最近も茨城沖で大きな地震があったばかりだ。東海地震、東南海地震…いつやってくるか判らない恐怖は募るばかりだ。

昔話になるが、今から30年近く前「伊豆大島近海地震」があった。マグニチュード7の大きな地震で、犠牲者も大勢出た。

地震当日、私は伊豆高原の家にいた。大島まで40キロ弱の位置にある城ヶ崎海岸で、友人が請け負ったテレビ番組撮影の手伝いをするため潜りに来ていたのだ。当日の朝は地震で目が覚めた。前日辺りから群発地震がおきており、「また地震か!」と舌打ちをし、コーヒー片手に伊豆海洋公園に行ったのを覚えている。

友人たちは撮影スケジュールをこなすため、私を待ち受けていた。「海の中で地震が来たら、どうなっちゃうのかねー?」等と軽口をたたき、海洋公園の深場(水深50メートル近辺)の生物撮影に出かけた。

海の中にはいると、いつもと違って騒がしい事に気付いた。岩礁が鳴っているのだ。その音は、上手く文字で表現できないが「ガンガンガンガン…」という岩の鳴る音であった。「アッ、地震の音だ…」と思いながら、巨大な岩礁から深みへ潜行していった。

水深50メートルの海底は、冬の素晴らしい透明度に覆われ、美しい光景に溢れていた。「さて、今日はどんな魚たちを見つけるかな…」と岩礁基部にある砂地の海底を探索している時、地震第一波がやってきた。

先ほど聞こえていた岩鳴り音とは比べ物にならない大きな音が襲いかかってきた。ちょうど伊豆大島の方向を向いていた私は、胸に叩き付けられるショックウェーブに呼吸が困難になった。ちょうど小さな子供が胸の上で跳ねている位の衝撃があった。数秒間呼吸ができなく、苦し紛れに体を捻ったところ、衝撃の来る方向からずれ、呼吸が可能になった。

衝撃は1分近く続いた。当時は、大深度潜水のため12リットルのエアータンクを2本パイプでつないだダブルタンクを使っていた為、衝撃がその接合部を外してしまうのではないかと心配だった。

水深50メートルはダイバーにとって決して安全域ではない。できるだけ早く、浅い海に避難しようと思った。仲間たちを振り向くと、突然襲ってきた海底地震に各自大わらわで、浅い方に向けて浮上を始めている者もいた。振り向くと、撮影用の水中ライトが砂地の斜面を転がって落ちていくのが見えた。少々迷ったが、そのライトを確保する為、深みの方に追っていくと、さらに強い地震波が襲ってきた。水中ライトを掴み、浅場の方に向かおうとすると、海底の砂が震動で20センチ程跳ね上げられ、舞っているのに気付いた。同時にその近くにあった大きな岩も跳ね上げられ、ドンドンとジャンプしているのが見えた。砂と岩では重さも質量も違うので、岩の動きと砂の舞が、それぞれ勝手気儘に動いていた。

その時点で、こんな大きな地震に海底で出会う事は希有な体験だと思い、冷静に生物的な反応を見ていこうと決心した。水深30メートル近辺、直径10メートル弱の大きな転石が並んだスロープ部分にまで泳ぎ着くと、その大きな転石も地震で動いたらしく、濁りが海底を覆い始めていた。生物たちの特徴的な動きは、残念ながらあまり見つけられなかったが、唯一感じたのは、魚たちが同種同士で一かたまりの群れになっていた事だ。普段は群れないタカノハダイなども10匹近くの群れになっていた。

巨大な岩礁を下から見上げると、中腹の水深20メートル近辺の岩の割れ目内で落盤でも起きたらしく、泥汚れが大きく中層に吹き出していた。後日、ニューヨーク貿易センタービルへのテロ攻撃中継画面を見ている時、煙を吹き出すビルの姿が、海洋公園の巨大岩礁にオーバーラップして見えた。

安全域とも言える、水深10メートル前後の海底に復帰した我々は、お互いの安全を確認しながら、伊豆海洋公園のエントリーポイントに向かって戻り始めた。「津波」への心配は、異常な潮流も感じていなかったし、城ヶ崎近辺の海が深い海底で囲まれている事も知っていたので、あまりしなかった。しかし、エントリーポイントに戻る間中、ズッと耳鳴りのように聞こえ続けている岩鳴り音は忘れがたい思い出だ。

本震後、私たちが周囲を潜っていた巨大岩礁自体が大きく岩鳴りを始め、「ガンガンガンガン…」と言う音は接近したり、遠ざかったりと言う変化を見せながら続いた。

エントリーポイント周辺は巨大岩礁から離れている為、その岩鳴り音も聞こえず、ホッと人心地つくことができた。さて、自分の安全が確保されると「陸上はどんな被害があったのだろうか…」と心配になってきた。いくら、途中から引き上げてきたとはいえ深度潜水をしたので、急に水面まで上がる事はできない。水深3メートル近辺で10数分の減圧停止が必要だったが、我慢できずにちょっと浮上して顔を出してみた。冬の日差しを受け、伊豆海洋公園は何の変化もなく佇んでいた。「何だ!陸上は大したことなかったんだ!」と自分が一人で大騒ぎをした気分になった。

減圧を終え、ダイビングセンターに戻ると、伊豆海洋公園の50メートルプールから大量の水が溢れだし、水位が30センチ以上も下がったり、付近の道路に大きな岩が転がり出たりと、被害が出ている事を知らされた。

後で知った事だが、我々が潜っていた場所は伊豆大島近海地震の震源地から20キロ弱の位置にあったらしい。くわばらくわばら…。

体全体で感じた伊豆大島近海地震。自然現象とはいえ、今後の地震災害を最小限の被害で食い止めるには、各自の心構えが一番大事だと思う今日この頃である。

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